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『SOGI』通信 No.64

 11年の3・11東日本大震災で葬祭業界で、課題として浮かび上がった一つが「遺体」の問題である。
 巨大地震とそれによって引き起こされた大津波による犠牲者は、3県以外も含め約2万人という膨大な数に上った。

 死者1万5874人(うち岩手県4671人、宮城県9531人、福島県1606人)、行方不明2744人(うち岩手県1192人、宮城県1337人、福島県211人)…12年11月28日警察庁発表による。このほか震災関連死の死者(内閣府集計12年9月30日現在)は、その数1都9県で合計2303人。
 
 この犠牲者一人ひとりの周囲にいた家族、親戚、友人、地域や仕事等の仲間が厳しい喪失の現実に直面した。生き残った人もまた暮らしを奪われた。
 岩手県育ちの宗教思想家・山折哲雄は、被災地に立ち、「無常」を痛感した、と語っている。
 破壊された暮らしの跡が瓦礫と化し、そのなかや海に人のいのちが遺体と化して打ち上げられたり、埋没、流出した。

 遺体が1体発見されるたびに遺された人たちの気持ちはひりひりした。まだ出てこない家族を想う気持ちもひりひりする。
 雪が舞った被災地では、その寒さゆえに1週間以内に発見された遺体は、泥を拭うときれいだった、と収容、搬送にあたった人は口々に言う。だが日を経るごとに切断され、腐敗していく遺体が増え、識別が困難になっていく。身元不明として火葬され遺骨になった後で、DNA鑑定の結果、捜し続けた家族であると判明したケースも少なくない。

 また、公衆衛生を守るためにと仮埋葬された遺体が、遺族の火葬の熱望から、腐敗が進む最中に「改葬」するために掘り起こされ、再納棺され、火葬された。それは担った建設業者が逃げ出すほど過酷だったが、葬祭従業者は逃げなかった。

 葬儀に携わる人に何よりも期待されたのはほかでもない。そうしたさまざまな状態の遺体に対応することであった。
 収容され安置された遺体の警察による検案前後に泥を取り除き、納棺し、身寄りが識別された遺体を火葬場に搬送。火葬場の予約を待つ間、遺体を保管・安置。そして葬式の準備。彼らは大量の遺体を前に、粗雑な作業にならないよう、1体ずつ丁寧に取り扱った。

 大災害での遺体は公衆衛生上の配慮が特に重要になる。多くの人が「仕事ですから」と黙々と対処したが、遺体を扱う葬祭従事者にも家族がいる。さまざまな状態の遺体を扱うのであるから、しかも尊厳をもって取り扱うのであるから、遺体の保全のためにも、周囲に集まる遺族のためにも、葬祭従事者の家族のためにも、公衆衛生の知識と注意深い取り扱いが重要となる。マスク、手袋、作業着、消毒薬、脱脂綿、包帯等は必需品である。

 とりわけ経営者が、公衆衛生上の配慮が必要だという認識をもつことが重要である。業界の近代化にはこの認識が共有されるべきだろう。
 遺体を取り扱う際の標準装備を業界共通に定め、標準化されるのが望ましい。これが若い従事者が誇りをもって葬儀の仕事をするための最低の環境整備ではなかろうか。



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