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『SOGI』通信 No.63

 2002(平成14)年8月2日に「健康増進法」が公布された。この法律の目的は、第1条に示されている。
<この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。

 この法律の背景に社会の「急速な高齢化」があることが明記されている。この法律はちょっと強面である。第2条には、<国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。
「これが国民の責務」として書かれている。飲酒も喫煙も怠慢とされる。

 この法律の実際的目的は、日本社会が急速に高齢化することで高齢者の医療費が高騰し、社会保障制度を危うくしているので、高齢者の医療費を抑制しなければならない、ことにある。そのためには平均寿命が上がるのは仕方がないが、健康な高齢者を増やして高齢者の医療費を抑制する必要がある。そこで生まれたのが健康増進法である。

「健康寿命」(日常生活に制限のない期間の平均)という指標を設け、10年後の22年には平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加を達成して、これと平均寿命の差を縮めるのが目的とされている。
 2010年時点での健康寿命は次のとおり。

男性 70・42年(平均寿命79・64歳)
女性 73・62年(平均寿命86・39歳)
 平均寿命との差は、男性で9・22年で、この期間が看護・介護が必要な期間となる。女性の差は12・77年にもなる。平均寿命で女性は6・75年上回っているが、健康寿命では3・2年の差となる。つまり女性のほうが看護・介護の期間が長くなる計算である。

 01年と比較して男性平均寿命が1・57年伸びたが、健康寿命では1・02年の伸びに留まっている。女性は平均寿命が1・46年伸びたが、健康寿命は0・97年しか伸びていない。いずれも看護・介護期間が伸びている計算である。

 もっともこれはアンケートの特定の質問への回答だけでの主観的なもので、客観的なものではないことに注意すべきである。70歳を過ぎると足腰が弱まってきて不自由と回答するか、まだ車椅子で生活できるから支障がないと回答するかでも変化する。サポート体制その他によっても変化する。個人差の大きいものである。

 また健康寿命を「介護保険によるサービスを受けない期間」と考えると、男性は約77年、女性は約83年となる。
 危険なのは「平均寿命と健康寿命の差は生きているのが無駄な時間」とする考えである。

 いま政府は「尊厳ある死」を言うようになった。これは明らかに高齢者医療費の削減を意識している。「自由意思」という名の生存期間の短縮の強制になりかねない。介護保険同様に、高齢者の医療にも制限がかかる時代になる危険性がある。



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