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碑文谷創(2005.9) 

■違法性を指摘された点
■改善が求められた点
■今後の公取の対応

■違法性を指摘された点

(1)病院指定業者の葬儀サービス請負の不法な強制行為―独占禁止法(抱き合わせ販売等)

 一時「病院戦争」と言われ、葬儀業者が病院の指定業者となるために熾烈な競争が行われたことがあった。病院指定業者になると、死亡直後でまだ葬儀を依頼する先が未定の遺族に対して葬儀の請負を説得するのに有利な立場に立てる、という理由からであった。
 だが一時に比べると「病院戦争」もだいぶ穏やかになってきている。遺族が予め葬儀委託先を決めていたり、葬儀を行う遺族の住所が病院から遠く、病院指定業者の営業エリアと異なる等して、病院指定業者の葬儀請負比率が2割を下回り、病院指定獲得料や指定維持のための余剰人員の確保等の投資金額を下回るケースが増えたことによる。

 今回の調査で判明したことは、依然として病院に年間1千万円を超え、かつ1遺体あたり数万円の金銭を提供している指定業者が存在する事実である。
「病院戦争」は下火になっているが依然として存在する事実である。
 今回「不法行為」と認定されたのは、病院指定業者が、病院から自宅までの遺体搬送業務(これは病院指定を受ける条件であるから不当行為ではない)と併せて、「その後の葬儀サービスについても、当該遺族を霊安室に引き留め、説得するなどして、自己との取引を強制的に促すといった事例」である。
 これは「不当に自己との取引を強制させるような行為」であり「独占禁止法上の問題(抱き合わせ販売等)」となる。
 調査では指摘されていないが、これまで耳にした例では、搬送が友引にあたる日に指定業者が車の中で「友引は一般の葬儀業者は休日であるが、当社は営業している」等の虚偽の情報を提供し葬儀サービスを請け負ったり、他の葬儀業者より自己の「料金が断然安い」と根拠のない情報を提供して葬儀サービスを請け負ったケースもある。(反面、「指定業者の葬儀サービスの料金は高い」と根拠もなく宣伝する葬儀業者もいる。)

 病院帰りの遺族は、家族の死の直後で精神的には極めて動揺している時期にある。この心理を悪用して、病院指定業者が遺体搬送という有利な立場を利用して「不当に自己との取引を強制的に促す」行為はあってはならない。
 別な言い方をするならば、強制するのではなく、また、虚偽の情報を提供して結果的に強制するのではなく、正当に自己の情報を提供するのは問題とはならない。

 しかし、病院指定業者の場合、ふだん親しくしている事務員や看護師を通しての説得や、また搬送途中の運転手と遺族という、いわば密室での打合せとなることから、「自己に有利な立場を利用しての、結果としての取引の強制」になりかねないのもまた事実である。
 病院指定業者の中には、遺体の病室から霊安室への移動、霊安室の管理を、病院から自宅への遺体の搬送以外に病院から義務づけられているケースがある。
 遺体搬送を除けば、本来は病院の行う業務であり、病院が葬儀業者に外注するのであるならば、その業務の対価を病院が葬儀業者に支払うべき性質のものである。
 自宅への遺体搬送についても、入院患者の場合は無料とするケースがあるが、霊柩運送費用は遺族の負担とすべきであり、それを病院側が無料としたいならば、病院が正当な霊柩運送料金を霊柩運送事業者へ支払って行うべきものである。

 いずれにしても病院が負担すべきコストを指定業者へ転嫁して、それだけではなく指定業者からお金を病院が受け取っているというのが歪みの本質である。
 病院では「入札」という方法で指定業者の選択を行っているケースもあるが、「1円入札」が横行し、正当な対価が支払われていない。さらには「1遺体あたり数万円の金銭」を要求している病院まである。
 こうした逆転した状況がある以上、指定業者はコストを回収すべく営業に力を注ぎ、その結果として「消費者への不当な強制」となりかねない事態も発生する。また、営業の結果によっては葬儀サービスを請け負うことが可能となり、指定業者となることによって利益を生むのであるならば、場合によっては1千万円を超える金額を支払っても指定業者となるということになる。

 病院側の歪んだ利益追求が、指定業者制度を生み、死亡直後の遺族の不安な心理に便乗しての営業を生み出している。
 病院指定業者の遺族への良識ある対応が望まれるのはもちろんであるが、この問題の根絶には、葬儀業者がコストを負担するという形の病院指定業者制度そのものの見直しが必要となるだろう。

 今回の公正取引委員会の指摘は、行き過ぎた病院指定業者の営業への違法性の警告であるが、その根は深いものであり、葬儀業界の近代化のためには解決すべき課題として改めて浮かび上がったと言えよう。


(2)根拠のない「安い」との表示―景品表示法

 最近の葬儀の「こぢんまり化」を反映し、市価より、他の葬儀業者よりも自己が「安い」とする宣伝が目につくようになってきている。
 それが正当に比較したうえで、証明可能な形で「安い」ことを表示するならばいいが、正当な比較抜きで、「安い」という表示を行うならば、それは「提供される情報が不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害すると認められる表示」となり、「景品表示法」上問題となる。

 葬儀サービスの料金というのは多岐にわたっている。公取の分類によるならば、[1]祭壇、棺等の「基本的な葬具の利用料金」、[2]納棺、通夜葬儀進行等の「人的サービス費用」、[3]ドライアイス、式場使用料、返礼品、料理、生花等の「その他の葬儀サービス費用」、からなる。
 このうち[1]の「基本的な葬具の利用料金」と[2]の「人的サービス費用」は一般的に「基本プラン」、「基本葬儀料」または「祭壇料」と言われることが多い。但し、そこに含まれるものの範囲は業者間で一定していない。含まれる範囲が異なるものを「基本プラン(基本葬儀料、祭壇料)」という名目だけで比較するのが不当なことは言うまでもない。
 また葬具にしても人的なサービスにしても「品質」「グレード」という問題がある。この品質やグレードについての比較なしに一方を「高い」と言い、他方を「安い」と言うことはできない。

 商品やサービスに「価格競争」があるのは当然のことである。そして今「価格競争」が発生しているのは葬儀業界にとって健全なことであり、消費者の利益になることである。
 しかし、正当な比較を欠いて自己を他よりも「安い」と宣伝することは違法である。現在の「安売り競争」の中には、こうした不当な「安さ」の宣伝がまかり通っている。

 例を他業界に向けてみよう。温泉旅館とホテルとでは、温泉旅館には宿泊費だけではなく、夕食費や朝食費が含まれる。ホテルには宿泊費だけ。温泉旅館が2万円、ホテルが1万円だとしてもそれだけではホテルの安さが証明できない。この場合には消費者は食事料金の有無について認識しているので問題は生じない。トータル費用を安くしようとすればホテルに宿泊し、食事はコンビニのおにぎりで済ませる選択もあるからである。また、ビジネスホテルと一流ホテルの比較ではビジネスホテルが安い。しかし施設、設備、サービスの品質やグレードもビジネスホテルは低いということを消費者は理解している。

 残念なことに葬儀業界には旅館・ホテル業界のような料金についての消費者のコンセンサスがないところが問題である。
 中には「基本葬儀料」は安いが、その他必要なサービスを加えて計算したらトータル料金は高くなるケースもある。あるいは不要なサービスを勧められて結果的に高い料金となることもある。
 要は消費者が納得して選択していれば問題ないのだが、この「納得」が難しい。
 消費者の多くは「葬儀料金はできるだけ安く」と言う。それはホテルで言えば、「ではカプセルホテルでいいのか」というとそういう人ばかりではない。

 葬儀サービスにはもう一つ「安心」というキーワードがある。多くの遺族は「遺族」となる経験を多くもっていない。それゆえに葬儀については不案内である。また、家族を喪ったことによる不安や動揺を抱えている。
「安心」の欠けた葬儀サービスは葬儀サービスとしての基本的な要件を欠いている。極端な言い方をすれば「祭壇」のない葬儀サービスよりも「安心」のない葬儀サービスのほうが劣る。
 葬儀サービスの安売り合戦に欠けているものは「消費者の利益」に対する認識であろう。あるいは「安心」や「品質」に対する認識の欠如であろう。その結果が「正当な比較」を無視した「安さ」の誇大宣伝となっているのではなかろうか。

 他方一般の葬儀業者に欠けているのは、自分たちは消費者にどのような葬儀サービスを提供しようとしているのか、という情報の開示である。わかりやすく言えば、自分たちはビジネスホテルなのか、シティホテルなのか、あるいは日本旅館なのかということをわかりやすく伝えているかという問題である。中にはビジネスホテル並みの品質で一流ホテル並みの料金をとっているかもしれない。それも不当である。このわかりにくさが不当な「安さ」の誇大広告を生んでいる要因でもある。  消費者は旅館やホテルのように葬儀サービスについて知っているわけではない。それゆえにいかに消費者にわかりやすく、かつ適正に料金を提示するかということに心を砕く必要があるが、それはまた困難な課題でもある。


(3)関連事業者へ不当な不利益を与える―独占禁止法(優越的地位の濫用)

 葬儀業者は葬儀サービスを消費者に提供するにあたり、その一切を自社で賄うわけではない。棺は棺メーカー、生花は生花業者、料理は仕出し業者、返礼品はギフト業者等多くの関連事業者の協力を得ている。
 ところが葬儀関連事業者の中には、葬儀業者から「取引とは直接関係ない要請を受けて苦慮」する例があり、葬儀業者が「葬儀関連事業者や委託先葬儀業者に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当な不利益を相手方に与える場合」は「不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上問題」と指摘された。

 その例は
[1]協賛金
[2]会員システムの会員集めの手伝い
[3]葬儀施行の補助要員の拠出
[4]イベントのチケット販売
 等である。
 
 こうした行為は、従来は「取引を進めるうえである程度は仕方のないこと」と関連事業者に許容されてきたことである。そういう意味では根が深い問題である。しかし、商取引というのは一方が他方に従属するものではない。取引と直接関係ないことについて関連事業者に強要することはあってはならないことである。
 [1]の協賛金については団体、組合あるいは自社のイベント等について関連事業者に協賛金の要請が行われることは慣例化していると言っても過言ではない。
 [2]の会員集めについては互助会や生前予約システムの会員集めに関連事業者にノルマが課せられたという例を耳にすることは少なくない。
 [3]の施行補助要員については、葬儀業者の人件費を圧縮するために出入りの業者の人手をあてにしている例も数多く見られる。
 [4]のチケット販売についても、互助会等のイベントやディナーショーのチケット販売を関連事業者にノルマとして押し付けている例もある。
 これも互助会の例であるが、宝飾品やおせち料理の販売で関連業者にノルマが課せられた例もある(自社の社員にノルマ化した例も)。
 こうした例はけっして特殊ではない。「下請け業者の当然の義務」とばかりに慣習化しているところがある。中には会社自身は要請していないのだが、社員自らの判断で、あるいは社員がノルマをはたすために関連事業者に「協力」という名の強要をしている例も見られる。
 商取引とは同等の立場で契約することによって成立する、という近代商取引の原則を、今一度確認する必要があるだろう。ある意味では封建的とも言うべき慣行がまかり通っているのが葬儀業界の現状であり、それが今回「不公正な取引(優越的地位の濫用)」と指摘されたと考えるべきであろう。


(4)事業者団体の競争制限の要請―独占禁止法(事業者団体の禁止行為)

 例として指摘されたのが、ある地域の霊柩運送事業者団体が新規進出の霊柩運送事業者に対して一般的な運賃・料金を維持するよう要請した事例であった。
 霊柩運賃は自由化され、現在は届出制になっている。価格破壊がされると他の事業者は価格維持ができなくなり、事業の採算が合わなくなる、という理由で地域の団体に動くよう要請する。しかし事業者団体がこうした行為に及ぶとそれは「一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合」にあたり「独占禁止法上問題(事業者団体の禁止行為)」に該当する。

 今の時代は低価格化の流れにある。価格破壊が進むと採算割れする事業者が出てくる。そこで業界秩序の維持ということで事業者団体に問題が持ち込まれる。しかし、今回の公取の見解は、今の時代のルールは、業界秩序の維持よりも自由競争にあるという事実を突きつける。
 これからの団体や組合は、価格破壊をする一部事業者を問題にするのではなく、一時的ではなく長期的に見た消費者に利益になる枠組みつくり、価格破壊に負けない体質強化、差別化戦略の開発にこそ向けられるべきことを方向づけたと言えよう。

■改善が求められた点

(1)葬儀サービスの内容や料金の詳細情報の事前提供

「料金・サービス内容について事前に消費者に対し詳細な情報提供を行うことは、消費者の適切な商品・サービス選択を確保する観点から望ましい」というのが原則である。

「価格表・写真付きカタログを事業所において配布」が54・5%というのは低いと言わざるを得ないだろう。葬儀というのは日常的でないという意味では特殊なサービスであるかもしれないが、誰もが死ぬということを考えれば、どの家族にも発生することである。個別的には見積もりすべきことであるが、およそどのくらい要するのか、標準的なプランはどうなっているのか、という基本的な価格表はどの事業所においても常備されるべきだろう。
 さらに詳細情報ということでは、「葬儀用品や料理等の写真」がわずか36・7%にすぎない。問題は「変動費に該当する項目の開示」が33・5%にすぎず、「変動費の単価」は29・7%にすぎないことである。

 最近は、会葬者数によって異なる料理等の変動費も含めた30人プランというような形で総額表示するケースも出てきている。しかし多くは基本プラン(固定費)+オプション+変動費という構成になっている。
 この基本プラン以外の料金が基本プランの最低でも3割、多い場合には15割くらいになる。葬儀業者に一括支払う葬儀費用(宗教関係費用を除く)において基本プラン以外の料金の占める割合はけっして少なくない。また、この基本プラン以外の料金のあることが消費者には充分には理解されていない点である。
 例えば「葬儀一式50万円!」とチラシに宣伝すれば、無知とはいえ、消費者の中には全葬儀費用が50万円で済むと理解する人が少なくない。そこで「会葬者が50人の場合の見積例」でも表示されていれば別である。
 料理、返礼品、霊柩車等どれが基本プラン料金(基本葬儀料、祭壇料)に含まれない項目なのか、それぞれの単価はどのようになっているのか、例外として個別見積もりのケースはあるだろうが、一般的な単価は示されているべきだろう。

 消費者モニターでも93・5%が「葬儀を行う場合に必要と考えられる情報」として「標準的な葬儀にかかる費用の総額」と答えている。
 料金の明朗化は葬儀業界が長く抱える問題点である。価格表示、基本プランに含まれない項目、変動費の単価の明示は至急行うべき課題であると言えよう。


(2)明細の入った見積書の提示

 見積書の交付については消費者モニターの結果と事業者アンケートの結果に大きな差が出ている。
 事業者は「依頼者からの求めがなくとも交付している」が73・3%であるのに対して、消費者は「交付された」が64・2%と9・1ポイントの差が出た。
 ほぼ同時期に行われた全葬連の「安心度調査」では事業者の89%が「交付している」と回答しているのに比べると、今回の全事業者を対象とした回答は16ポイント低い。
 問題は、消費者の35・6%が「交付されなかった」と回答している事実である。

 打ち合わせは死亡直後に行われるために、慌しくて見積書を受け取ったのにその自覚がなかったというケースもあろう。
 打ち合わせでは消費者は「具体的な項目と料金が明らかにされた価格表」を用いて行ったとする回答が71・6%、「写真なしの価格表を見ながら行った」が10・5%あるので、80%は価格の提示を受けて打ち合わせをしている。
 しかし、「特に資料は提示されず口頭で打ち合わせた」が15・4%あった。これには葬儀業者と遺族の間に信頼関係があったからというケースも含まれるかもしれない。だが、葬儀サービスの提供は金銭の授受によって行われる明確な商取引である。これは葬儀業界に依然として前近代的な体質が残っていることを示している。

 葬儀というのは個々によって異なるので、価格の提示が具体的に見積書という形になって契約の前提条件となる。
 確かに地域によっては、あえて価格表を提示しなくとも、あえて見積書を提示しなくとも、相互理解ができていて消費者の不利益にはならないという場合もある。

 しかし、葬儀業者が見積書を提出するということは、消費者への約束であり、打ち合わせた内容の葬儀サービスを提供する義務のあることの表明なのである。
 したがって見積書の提出は葬儀サービスを請け負うにあたっての葬儀業者の義務なのである。


(3)追加料金の発生の可能性についての充分な説明

 「追加料金」ということで、報告書では内容的に異なる2つのケースについて一緒に説明されている。
 一つは見積書で想定された会葬者数や親族数をオーバーしたり、当日の天候でテントや冷暖房器具等が必要になったケースである。
 これは当然にも当日の状況によって左右されるものであり、不可避である。
 実際に見積額を超過した原因の97・4%が「会葬者が想定数を超えたことによる料理や返礼品等の増加(見積項目中の数量の増加)」であり、残りは天候の変化によるテント、親族の貸衣装、貸布団、供花、冷暖房器具となっている。

 問題は、こうした追加料金の発生の可能性について、消費者にとって充分な説明が行われているかということである。
 事業者の84・4%が「説明した」と回答しているが、消費者は「説明を受けた」が52・2%、「覚えていない」が36・2%で、「受けていない」が9・7%あった。

 打ち合わせの状況という問題がここにはあるように思われる。
 遺族は家族の死亡直後で精神的にも動揺しているだろうし、混乱している。事業者側の回答と消費者側の回答の差は、この状況を葬儀業者がもっと考えておくべきことを示しているように思う。
 葬儀業者は見積金額が「宿泊を要する親族10人、会葬者は80人と仮に想定した場合のもので、当日の実際の人数が想定数を上回った場合には見積金額を上回りますよ」と説明したつもりであっても、消費者は「請求金額は見積金額を上回ることはない」と理解してしまうケースがまま発生する。

 見積金額と請求金額に差額が発生した場合、消費者は「説明があり納得できた」が67・8%に止まり、「説明がなくてよくわからなかった」が20・6%、「一部納得できないところがあった」が7・2%もある。
 消費者の27・8%が「納得できていない」という事実は重く受け止められるべきだろう。
「事前に説明した」「説明していない」という事実関係が問題なのではなく、事前の充分な説明、見積書の記入方法の改善が求められていると考えるべきだろう。

 こうした当日の状況による相違はわかるが、見積額が基本プラン(葬儀基本料、祭壇料)に対してのみ行われていて、基本プランに含まれないオプションや変動費に対しては行われていないケースが見られたことは問題である。
 葬儀業者の基本プランには、消費者によっては選択により変わるものは、予めオプションとして基本プランとは別にしていることがある。
 例えば、遺影はカラーか白黒か、あるいはサイズ、棺(プリント、桐の合板、布張り等)、霊柩車(バン型、宮型、洋型等)、湯灌やエンバーミング、接待用の人員、駐車場の誘導係、等である。

 しかしこうしたオプションの差が見積金額と請求金額の差になることは論理的におかしい。打ち合わせをし、遺族がオプションについても選択した結果が見積書に反映されるべきであるからだ。これらオプションの選択結果が反映されていない見積書は何のための見積書かわからない。
 消費者モニターでは「棺代など大きな金額のものが追加料金に含まれていたため、結局は、総額が見積金額の3倍以上に膨らんだ」事例が報告されている。これは論外と言うべき事例で、こうした一部事業者の行為が消費者からの不信を招く要因になっている。

 以上見たところを改善するには見積書の構成は次の3部から成り、それが項目分けされている必要があるだろう。
[1]基本プランの料金(そこに含まれるサービス、葬具の一覧。これは別途価格表を添付してもよい)
[2]オプションとなるサービス・葬具とそれぞれの料金
[3]変動費の内容とそれぞれの単価と仮の想定数に基づく料金
 そしてこの[1]+[2]+[3]が見積金額となるべきである。
 見積もり方法が一式セット方式か積み上げ方式かは[1]の基本プランが多くなるか、[2]のオプションが多くなるかの相違である。
 問題は[1]基本プラン、[2]オプション、[3]変動費の3つが区分されて表示され、その意味が充分に説明されて見積総額が表示されていることである。

 見積書の改善だけではない。見積書というのは、遺族と打ち合わせを行い、その合意した結果を表現するものである。あるいは見積書を提出し合意しなかった場合には見積書の再提出となる。

 消費者モニターアンケートで「再度同じ業者に葬儀を依頼したくないと思う理由」から見積書に関する項目を拾って見よう。
 そのトップは「サービス内容が葬儀料金に見合っていないと感じたため」(35・2%)である。これはそもそもその葬儀業者のサービスの質に問題があるのか、あるいは予めどのような品質のサービスを提供するかという開示が行われていないことからきている。ホテルで言えば、ビジネスホテルクラスのサービスなのか、シティホテルクラスのサービスなのか、ということである。同じ百万円でも高くも安くも受け取られる。
 また「料金の明細を明らかにしていなかったため」(14・1%)は、見積書は何のためにあるのかという基本の問題である。提供する葬儀サービスの内容を明示してその金額を示すのが見積書だからである。消費者心理としてはサービス内容への不満の表明である。

 そして消費者からの不信を招くのは「必要性の有無を説明せず、サービスの追加を勧めてきたため」(14・1%)。
 オプションというのは、火葬までの期間が長いからドライアイスの追加が必要、寒いから暖房器具が必要等の理由が客観的に説明できるものか、霊柩車は宮型ではなく洋型がいいという消費者自らの選択によって発生するものである。あるいは遺体の腐臭を防ぐにはエンバーミングという処置があるという事業者側の情報の開示に基づき、消費者自らが選択するものである。葬儀業者側が「必要性の有無を説明せず」にサービスの追加を勧めることはあってはならない。

 「事前に業者が提示していたサービス内容と異なっていたため」(8・5%)はいわば契約違反である。打ち合わせた結果、見積書を提出したのであるから、打ち合わせたサービス内容について契約したことになる。場合によっては対価の支払いも請求どおりに行われない可能性がある。
「事前に断りもなくサービスを追加し、その代金を請求されたため」(2・8%)は支払いを否認されてもしかるべきである。

  多くの事業者においては消費者の納得を得ているのであるが、一部において、こうした行為がまだ存在していることが、そしてこれを興味本位におもしろおかしく取り上げるメディアがあることによって、葬儀業界全体に悪いイメージを与えている。


(4)互助会加入時の割増サービス、解約の返戻金、倒産時の保全条件の充分な説明

 互助会は今や葬儀施行の4割近くのシェアをもつ一大勢力となっている。互助会の会員勧誘にあたっては消費者に誤解を与えないような充分な説明が求められる。今回の事業者アンケートでは、事前に契約時に諸条件を事前に説明している事業者が多かったが、「一部には、消費者への説明が不十分であると考えられる互助会もあった」とされる。
 しかし互助会加入契約前に契約約款を読んだ割合は、消費者モニターでは「提示されたが、きちんと読まなかった」が61・7%あった。さらに「提示されなかったため読んでいない」も14・8%あった。半数以上には充分に理解されているとは言えず、互助会事業者には、消費者にわかりやすい充分な事前説明が求められる。また営業社員の徹底した消費者サイドに立った教育が望まれる。

[1]積立金完納後の割増サービス
 例えば互助会の30万円コースに加入し、その積み立てが完了しても、葬儀の施行時にはそれで葬儀サービスの一切を賄うことはできない。そこで賄うことができるのは、あくまで基本プランに相当する部分で、固定費の部分である。オプションを選択すれば別料金が発生するし、料理や返礼品等の変動費も別料金である。
 互助会の一部には、施行時にオプション部分の営業をノルマ化しているところもあり、結果的に基本プランの2倍を超えるオプションの料金を支払う消費者もいる。消費者が納得していれば問題ないのだが、これがしばしば問題となる。「安くなるからと言われて互助会に入ったが、結果的に高いものについた」という声も実際に聞く。
 消費者に、実際の施行時には積立金で全てを賄うことができないことを契約時に明示すると同時に、施行時にはオプションはあくまで消費者による選択であるべきで、事業者側に有利に消費者を誘導させることはあってはならない。

[2]解約の際の返戻金
 互助会は預金と異なり、積立金に利子がつくわけではなく、解約に際しては積立金の全てが返還されるわけではない。解約にあたっては20%を超える手数料が差し引かれて支払われる。
 これは約款に明記されているので、解約手数料そのものは違法ではない。しかし、このことが充分に消費者に理解されているかは問題が残る。
 消費者モニターでは「解約した場合は、積立金が満額返還されるわけでないこと」を理解していたのは48・7%と半数を下回った。
 このことは互助会勧誘に際して消費者に理解できるよう説明すべきことを示している。
 今回の調査では触れていないが、今互助会の解約問題が少なからず発生している。満額返還されないことの問題以前に、解約そのものが円滑に行われない問題である。
 互助会の加入は事業者と消費者との自由な契約に基づく。解約にあたって手数料が発生することは、合理的な範囲であれば約款に示されていれば違法ではない。しかし解約は本人の自由意思に基づいて行われる権利が消費者にある。
 一部の事業者であっても、解約を申し出るとセクションのたらい回しをしたり、本人の意思確認に通常では考えられない複雑な証明を要求して解約を回避しようとする事例がある。これらは速やかに改善されるべきであろう。

[3]互助会倒産時の保全金額
 互助会も企業である以上、倒産する企業があっても当然である。しかしこれによる消費者への影響を少なくするために、経済産業省は互助会業界に前受金の一定の保全処置を求め、互助会業界も保全のための努力している。実際には倒産の危険がある企業が出ると他の財政的に余裕のある互助会が営業権を引き受け、会員には従前の約束どおりのサービスを提供する形になっている。
 これまで淘汰されたとは言え、まだまだ経営が困難視される互助会はあるし、今後は代替して引き受ける互助会がなく倒産という事態になることも想定される。
「供託等によって保全される金額は積立金の半額であること」を説明している事業者は88%であるが、これを理解している消費者は5・1%にすぎない。
 互助会業界も1互助会の倒産により会員である消費者に及ぼす影響を未然に防ぐ施策をさまざまに講じている。しかし、いざというときの消費者にとっての不利な条件についても、契約に際し明示することがいっそう求められる。


(5)心付けの説明、棺移動の代替手段の説明

 遺族が「心付け」を霊柩車の運転手、火葬場の職員、料理の配膳人等の葬儀関連事業者またはその従業員に支払う慣習がある。だが「慣習」であって決まりではない。

 遺族となった消費者が迷うことの一つが「心付け」である。一般社会において心付けの習慣がほとんどなくなってきているからである。ところが葬儀業界では「心付け」の慣習が今なお残っている。
 葬儀の世界で「心付け」が残るのは葬儀独自の文化も反映している。昔、柩を運ぶ人や埋葬のための墓穴を掘る人、火葬に携わる人へは、その死穢の禊ぎのためもあって酒食が振舞われた。これが現在では、霊柩車の運転手や火葬場の職員へ酒食を振舞う代替行為としての「心付け」となって現れている。

 葬儀業者やその従業員に対しても心付けはあった。だが多くの葬儀業者は近代化と共に「葬儀サービスを提供して対価を得ているのだから」と心付けを辞退するようになっている。また、自ら提供する葬儀サービスに誇りをもつことから「死穢を清めるいわれがない」とする考えが普及したことにもよる。今や葬儀業者では心付けを受けるのは少数派になっている。

 一方、火葬場の職員については、火葬場の公営化が進むことで、公務員としては心付けを受け取れないという理由で、運営管理する自治体が「心付け受け取り禁止」を打ち出しているところが多い。今では公営火葬場の職員が心付けを受け取ったことがわかると、新聞でスキャンダルとして報道されるまでになっている。
 心付けについては、葬儀業者が消費者にその慣習があることを情報として知らせることはいいが、併せて「支払い義務のないこと」も説明しないといけない。これが「心付けについての消費者への充分な説明」となる。「支払い義務がないこと」を説明せずに「支払う慣習」だけを説明した場合には「説明義務違反」として賠償請求されることがある。

 葬儀の世界では独自の文化的背景をもった「心付け」であるが、「死者に係わった者は死穢に染まる」という観念、または「皆がやりたくない仕事だから」という感覚はそろそろ払拭すべき時期にきているだろう。
 葬儀業はもちろんのこと霊柩運送事業も火葬場運営業務も、自らの業務がむしろ福祉の現場であり、「いのちの尊厳の現場に立会う仕事」としての矜持が求められるように思われる。心付けを撤廃するというのは葬儀の世界の近代化の一つの指標であろう。
 霊柩運送事業に関しては、もう一つ求められていることがある。火葬場に併設されている式場の場合に、柩を台車で運ぶことが可能なのに、その代替手段があることを説明しないで霊柩車の使用を勧めることである。
 もちろん葬送は野辺の送りに原点があるのだから、火葬の前には野辺の送りの現代版である霊柩車に、たとえ短い距離の間であっても載せて送りたいとする遺族の心理は理解できる。だが、葬送は短距離であれば柩を担いででも、あるいは昔の棺車のように台車に載せてでも可能である。どの手段を用いるかは消費者が適切に選択することである。

 今回、「葬儀業者が、代替手段があることを説明せずに葬儀関連サービスを受けることを強く勧誘する事例」が指摘された。
「心付け」も「霊柩車」も文化である。しかしそれは強制されるべきものではない。文化の中には近代化とともに脱却したほうがいいものもある。死を穢れと見ることからくるものはそれにあたる。また文化は強制されるべきものではなく、人々に選択されて継承されていくものである。


■今後の公取の対応

 今回の公正取引委員会の調査は「葬儀サービスの取引の実態」の解明と、[1]葬儀業者と消費者の取引、[2]葬儀業者間の顧客獲得競争、[3]葬儀業者と葬儀関連業者の取引、という3つの点から「独占禁止法」「景品表示法」「競争政策」上の見解を示したものである。
 行政の手で、葬儀サービスについて最初に本格的なメスが入れられた今回の調査のもつ意味は大きい。

 調査書の末尾には次のように書かれた。
「今後、公正取引委員会としては、このような実態及び問題点を踏まえ、関係事業者が適切に対応することを望むとともに、公正かつ自由な競争の促進の観点から引き続き取引の動向を注視していくこととしている」

 葬儀サービスが抱えている前近代性と消費者保護について徹底していない部分が今回の調査で明らかになった。ということは葬儀業界、葬儀関連業界のこれからの改善の課題も提出されたということである。これらの課題を克服していくことは葬儀サービスを提供する者の責務であり、これが消費者のための葬儀サービスに必要なことであると考える。



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