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◆第1回 死別の悲しみへの理解
◆第2回 悲しんでいる遺族を傷つけない接遇のあり方
◆第3回 “きちんと悲しめる”施行
◆第4回 葬儀後のご遺族に対してできること
◆第5回 周囲の方にお伝えしたいこと
◆第6回 スタッフのグリーフをどうするか
◆番外編 グリーフサポートの観点からみた司会のあり方 New


葬儀におけるグリーフサポート・死別の悲しみへの理解
                    〜ご遺族はどんな状態なのか〜

 今回から全6回で、葬儀におけるグリーフサポートについて勉強してまいりましょう。
 勉強会のタイトルにある「グリーフサポート」とは、「死別の悲しみ(グリーフ)にくれる人を支えること」を指しています。

 葬儀におけるグリーフサポートの必要性が、数年前から葬儀社の間で言われるようになってきました。その背景としては「千の風になって」が大ブレイクしたことにも表れているように、世の中に“死別の悲しみの癒し”へのニーズが高まってきているということがあります。人の死別の前後に関わる葬儀社に対しても、グリーフサポートの目線を持つことが当然のように求められるようになってきたのです。
 そこで、「施行のあり方、葬儀の前後におけるご遺族への接し方を、グリーフサポートの観点から捉えなおしてみましょう」というのが、この勉強会の趣旨です。

「グリーフケア」ではなく「グリーフサポート」
 一般的には、グリーフサポートではなく「グリーフケア」という言葉が使われています。しかし、「ケア」という言葉はたいへん誤解されやすく、「グリーフケアをしよう」と言うと、葬儀社の職員のみなさんは「ご遺族の“心のケア”をしなければならないの? 私たちは専門家じゃないからできない!」と思われる方が多いようです。また「“心”の領域に手を出すことのリスク」を強く感じる経営者の方も多くいらっしゃいます。

 また、葬儀社が「グリーフケアをします」と謳うと、ご遺族からも「あんたたちにケアなんかしてもらいたくないよ」と、「ケア」されるべき対象として扱われることへの反発を招くこともあります。誰も、自分や家族とほとんど初対面の葬儀社の職員に「心のケア」をしてもらいたいとは思っていらっしゃらないのです。

 これから勉強会を進めていくなかでお伝えしますが、例えば、式場を清潔に保つこともグリーフケア、ご遺族が人目をはばからずにゆっくり泣くためのお部屋を整えることもグリーフケアです。悲しんでいるご遺族の邪魔をしない、不愉快にさせたり、不用意に傷つけたりしない、ご遺族が余計なことに煩わされずきちんと悲しめる環境を整えてさし上げる、それが、葬儀社の役割ではないでしょうか。
 
グリーフケアは決して心のサポートだけではないので、カウンセラーなどの心理専門職でないからといって「グリーフケアをする」のに躊躇しなくてもよいのです。むしろ、死別の直後に関しては、心理専門職でなく葬儀社にしかできないことのほうが、実はたくさんあるのです。
 ですから、なるべく誤解の少ないように、この勉強会では「グリーフケア」のかわりに「グリーフサポート」という言葉を使っていきます。
 では、さっそく進めていきましょう。

「グリーフサポート」とは〈用語の定義〉
 第1回目の今回は、「グリーフサポート」という言葉の中身について学びながら、死別とはどういうことなのか、ご遺族はどんな状態なのか、についてお伝えします。
 
〈グリーフサポートとは〉
人は(1)死別などによって大切な人を失うと、大きな悲しみである「(2)悲嘆(Grief)」を感じ、長期にわたって特別な(3)心と体の状態の変化を経験し、その結果、社会生活に影響が出てしまうこともめずらしいことではない。深い悲しみに陥った人が立ち直るまでに努力して行う心の作業を「(4)グリーフワーク」と言い、その作業を側面から支えることを「グリーフサポート」と言う。
 
 ここに出てくる用語の一つひとつをご説明するなかで、死別の悲しみへの理解を深めていただきたいと思います。

(1)「死別」とは?〜ストレスとしての死別体験
 大切な人と死に別れるということは、人間にとってどういうことなのでしょうか。あえてきちんと考えてみたいと思います。ストレスの源としての切り口からみていきましょう。死別は、人生の中で耐えることのできるもののうち最もストレスの強い体験であると報告されています。(Elliott & Eisdorfer, 1982; Holmes & Rahe, 1967)

●身体的ストレス源としての死別体験
 死別体験からは、一般的に次のような状況が起こると言われています。
・身体的な病気を引き起こす。
・すでに有する病的状態を悪化させる。
・新たな身体的症状や主訴を発生させる。
・医療機関の利用を増加させる。
 (ジョージ・M・バーネル/エイドリエン・L・バーネル『死別の悲しみの臨床』医学書院)

 死別体験は、健康状態に影響してくるということです。通夜の夜などに、持病が悪化するなどして、倒れてしまうご遺族を見かけることはよくありますよね。ご遺族はただ疲れていらっしゃるのではなくて、死別を体験したことによって身体にストレスがかかっていらっしゃるのかもしれません。

●心理的ストレス源としての死別体験
 死別を体験した人の多くが、抑うつ状態になりやすいということが知られています。抑うつ状態というのは、気分がふさいだり、人に会いたくないと思ったり、やる気がなくなったり、といった、ごく一般的に私たちが経験する「落ち込んでいる」時の状態を指しています。

●社会的ストレス源としての死別体験
 ご遺族はしばしば、私たちが思いもよらない場面で、「拒否されている」「笑われている」といった感じを受けていることがあります(実際にさまざまな偏見をもってみられることも少なくないのかもしれません)。

 また、孤独感の強い時には、傍目にはご遺族がどんなに支援に恵まれた状況にあっても、ご本人は「自分には頼っていける人がいない」、「話を聴いてくれる人すらいない」などと感じていらっしゃることがあります。傍から見て、ご遺族の周りに親密そうな親戚が大勢いるからといって、そのご遺族が周囲から十分にサポートされている状態だと安易に判断することはできないのです。

 それから死別を機に、仕事や収入の喪失、人生のパートナーの喪失、社会的地位の喪失など、実際の社会的役割や生活ががらっと変化してしまうことも、それ自体がとても大きなストレスとなります。
 
ストレスの度合い
 
 では、そのストレスの度合いはどの程度のものなのでしょうか。「社会再適応評価尺度」(Holmes & Rahe, 1967)、という有名なデータがあります。その出来事が起こってから、立ち直るのにどのくらいのエネルギーがいるか、という観点から、それを数値化して並べたものです。端的にいうと、出来事をストレスの強い順に並べてある表です(資料1)。

 その表の中に、死別に関するものがいくつあるでしょうか。
 これを見ると、配偶者の死は、人生におけるもっとも強いストレスとされており、また、5番目には近親者の死、17番目には親友の死がきています。身近な人の死は、人生における重大なストレスになるということが、おわかりいただけると思います。

 また、死別を機に引越しをしなければならなかったり、仕事をかわらなければならなかったり、こうしたライフイベントは重なってやってきます。死別を体験したご遺族は、たいへんなストレス状態の中にいるのだ、ということが、おわかりいただけるのではないかと思います。

(2)悲嘆(グリーフ)とは
 悲嘆(Grief)は、「喪失から生じる強い感情ないし情緒的な苦しみ」を表す言葉です。死別による喪失だけを表す言葉ではなく、例えば、親の離婚によって子どもが感じる喪失の悲しみも「Grief」、大事にしていたぬいぐるみをなくしてしまった喪失の悲しみも「Grief」です。このほかにも、ペットの死、失恋、体の一部を失うこと、失業、災害で家を失う、信頼していた友達に裏切られる、お金を盗まれる、など、さまざまな「喪失」とそこから生じる「悲嘆」があります。
 ご遺族の気持ちに添った施行のあり方を考えるとき、死別を体験したことのある人は、自分の時はどうだったのか、立ち返ってみる。家族の死を経験したことのない人は、自分の体験した別の喪失体験からご遺族の気持ちを想像してみる、あるいは、死別を体験した人の話を聴かせていただくことから想像してみる、そういうことが、とても大切なのではないかと思います。
 
悲嘆は「反応」―悲しいのは当たり前
 
 では、この「悲嘆(Grief)」をどう捉えるかということですが、身近な人を亡くして激しく悲しんでいる人のことを、心の病気であるかのように思っている方が結構いらっしゃいます。確かに、中には、大切な人の死をきっかけになんらかの精神疾患を発症される方もいらっしゃいます。ですが、大切な人と死別したら、悲しくてつらくてふさぎがちになるのは、自然なことです。

 悲嘆を「疾患」とみなすべきか、それとも重大な喪失を体験した人の誰もが経験する「反応」とみなすべきか、については専門家の間でも議論されることがしばしばあるようです。
 
 この勉強会では、悲嘆を、疾患ではなく反応とみなす立場をとります。悲嘆を疾患と捉えてしまうと、葬儀社の職員が関わるべきことではなくなってしまうからです。つまり、「病気はお医者さんに治してもらってください」と、ご遺族を突き放し、遠ざけてしまうことになる。そうではなくて「悲しいのは当たり前」なんだ、という立場をとることによって、ご遺族が悲しみにくれている、そのことを、正常なこととして共に受け止めることができ、そこからはじめて、よりよいサポートのあり方を模索できると思うからです。

(3)悲嘆の反応は心と体の両方に起こる
 では、悲嘆を当たり前のこととして捉えたところで、実際にご遺族がどんなふうになるのかを見ていきたいと思います。

 死別の悲しみ、というと、よく心の問題とだけ誤解されがちですが、死別の悲しみによって生じる反応は、心と体の両方に起こってきます。ご遺族は、ただ疲れているのではなく、悲嘆の反応が起きている結果なのだということを、みなさんにぜひ、知っていていただきたいと思います。

 遺族支援リーフレット「大切な涙」(資料2)に書かれている症状は、大切な人と死別した多くの方に見られる正常な反応です。この「大切な涙」を作成したとき、この内容を一番見やすい冒頭のページに入れました。死別を体験するとこういう反応が起きる、ということを、ご遺族が知らないからです。

 知らないままこれらのことを体験すると、「私は、おかしくなっちゃったんじゃないだろうか?」とさらに混乱してしまうのです。そういう混乱を、少しでもやわらげてさし上げたい。死別の悲しみだけで大変なのですから、少しでも、余計な負担は取り払ってさし上げたい。ですので、これらのことが起こりうるということ、どれも正常なことで、死別を体験した誰もが経験することである、ということを、ご遺族にお伝えするということがとても大切になってきます。
 
死別の反応は死別の前から起きる〜予期悲嘆
 
 この「死別の反応」がいつから起きるかというと、実は、その死が予期できるときには、死別の前から起こります。死別の悲しみと死別の悲しみから引き起こるさまざまな反応は、実は死別の前から起きるのです。

 つまり、グリーフサポートということを考えたとき、死別の悲しみ―サポートが必要な状況というのは、実際には死別の前から始まります。「予期悲嘆」といわれるものですが、例えば、余命を告知された場合などです。私の従妹の家族は、従妹が主治医から「酷なようですがガンで命を落とすことになると思います」と言われて、しばらくおかしくなりました。その後、本人が一人で買い物に行って、たまたま地下の食品売り場に入っていて、携帯電話がつながらなかったのです。従妹は買い物に行く、と言って出かけていましたし、ほんの1時間程度のことでしたが、家族たちは彼女がいなくなってしまったと考えて、うろたえてあちこち探し回っていました。傍から見ていると、その行動はとても変でしたが、これが彼らの予期悲嘆の反応だったのでしょう。心と体の状態が変化するだけでなく、行動もおかしくなる、おかしくなって当然だ、ということです。

 事前相談などは、実はこの予期悲嘆の状態にあるご家族と関わることも多いと思います。
 ご遺族には、これから起こりうる変化についての情報を、この時点から読みやすいリーフレットにしてお渡しするのが役に立つでしょう。

(4)グリーフワーク
 このように、死別を体験したご遺族はさまざまな心と体と行動の変化を経験します。この変化を経験する過程では、悲しみを避けるのではなく、むしろ“きちんと悲しむ”ことが大切と言われています。深い悲しみに陥った人が立ち直るまでに努力して行う心の作業=“きちんと悲しむ”ことを「グリーフワーク」といいます。グリーフワークは、「喪の仕事」「喪の作業」などと日本語に訳されています。

「グリーフワーク」と「グリーフサポート」、よく似た言葉ですが、「グリーフワーク」はご遺族がすること。グリーフワークをしているご遺族を支援する=「グリーフサポート」をするのが、別れの場面に立ち会っている私たちです。
 
 グリーフワーク=ご遺族がすること
 グリーフサポート=周囲(葬儀社)がすること
 
 死別を経験したあとは、さまざまな感情が沸き起こってきます。葬儀の場面でも、ご遺族が感じているさまざまな感情をきちんと表現できることが大切であり、それを葬儀社が側面からどう支えていくのか、具体的な内容を第2回目以降にお話したいと思います。

資料1:「社会再適応評価尺度」(Holmes & Rahe, 1967)
順位 出来事 ストレス値
 
1配偶者の死100 23子どもの独立29
2離婚73 24親戚とのトラブル29
3夫婦の別居 25自分の輝かしい成功28
4留置所などへの拘留65 26妻の転職や離職26
5家族の死63 27入学・卒業・退学26
6ケガや病気53 28生活の変化25
7結婚50 29習慣の変化24
8失業47 30上司とのトラブル23
9婚姻上の和解 31労働時間や労働条件の変化20
10退職45 32転居20
11家族の病気44 33転校20
12妊娠40 34趣味やレジャーの変化19
13性の悩み39 35宗教活動の変化19
14新しい家族が増える39 36社会活動の変化
15転職 371万ドル以下の借金17
16経済状態の変化38 38睡眠習慣の変化16
17親友の死37 39家族団欒の変化15
18職場の配置転換36 40食習慣の変化15
19夫婦ゲンカ35 41長期休暇13
201万ドル以上の借金31 42クリスマス12
21担保・貸付金の損失30 43軽度な法律違反11
22職場での責任の変化29 
 
*「配偶者の死」によるストレス値を100、「結婚」を50とし、どの程度のストレスが与えられるかを数値で表した。

資料2:遺族支援リーフレット「大切な涙」(近藤浩子・鷹見有紀子制作)
心と体の変調を受けとめる
 
★体の変調★ 
・不眠(寝つきが悪い、何度も夜中に目が覚めてしまう、早朝目が覚める、不快な夢を見るなど)
・過眠(一度眠るとなかなか目が覚めない、眠くてたまらず気づくと眠っているなど)
・体力の低下(風邪をひきやすくなる、筋力が落ちる、体重の減少)
・激しい空腹感、あるいはお腹がふくれた感じ
・食欲がなくなる、あるいは過食状態
・疲労感
・肩のこり
・首のこり、腰の痛み
・胃の痛みや胃が重い感じ
・腸の不調(下痢や便秘など)
・胸の痛み(しめつけられるような感じ)
・動悸(心臓がどきどきする)
・血圧の上昇、あるいは低下
・頭痛や吐き気
・呼吸の乱れ(息切れ・息苦しい感じ)
・めまいやふらつき、耳鳴り
・口の渇き、喉が詰まった感じ
・白髪の急増
・持病の悪化
・性欲の低下
・痛みや熱さなどの感覚がにぶくなる
  
★体の変調★ 
・何も感じない。 ・周囲や自分自身に無関心になったり、世の中のできごとや今までの趣味などに無関心になる。
・悲しいという気持ちさえ起きない。
・死という事実が受け入れられない。(死んだはずがない、きっと帰ってくるに違いないと思う。長期間の旅行か出張に行っているから、いずれ帰ってくると感じる)
・人の話が理解できない。
・物事が決められない。
・物事に集中できない。
・亡くなった人のことが頭から離れない。
・亡くなった人の姿が見える。声が聞こえる。
・ひたすら涙が出てくる。
・理由がわからないけれど、無性に不安を感じる。
・大声で泣いたり、わめいたりする。
 大声で泣きたくてたまらなくなる。
・激しい怒りや恨みの感情を感じたり、自分を責めたりする。
・何もする気が起こらないなどの無気力感や虚無感。
・落ち着きのない過剰な行動。(掃除を必要以上に行ったり、目的もなく室内をウロウロ歩き回るなど)
・今起こっていることが「夢のよう」に感じられるなど、現実感があまり感じられない。
・自分と周囲の人たちとの間にカーテンや霧がかかってしまったように思えるなど、孤立感を強く感じる。

 また、これらの症状の他にも、例えば、亡くなった方を思い出させる場所や物、その方に関連する場所(部屋など)に引き寄せられてしまったり、反対に、近づかないように避けてしまったりすることがあります。こうした行動も、大切な方を亡くされたご遺族のごく自然な、正常な反応です。
 大切な人を亡くした後は、さまざまな変化が生じて、多くの人がとまどいを覚えます。実際的な生活面での変化だけではなく、身体面や精神面にも変化が生じることは、とても自然なことです。



葬祭事業者のための「グリーフサポート」勉強会 『SOGI』103号
鷹見有紀子  



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