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碑文谷創

 人類学、民族学、民俗学と呼び名はいろいろある。違いがあるのだろうが、社会学も含めて個々の研究者の傾向のほうが学問名の違いよりも大きいように思う。この違いをあまり気にしないで以下紹介していこう。

■大林太良『葬制の起源』 角川書店、1977
 
 日本の代表的歴史民族学者による書。世界の葬制と日本の葬制を合わせて論じている。まさに「民族学」である。
 
 死と人間/先史時代の葬制/民族学的研究の歩み/葬制の諸形式/死後の幸福/日本の葬制/エピローグ

■五来重『葬と供養』 東方出版、1992
 
 1100頁を超える大著。まさに巨人による作。内容は刺激的にしておもしろい。「仏教民俗学」を方法として提唱する著者の代表作。これを読まずして葬送の民俗学は論じられないと確信する。
 いかに内容が豊富かを以下に示す。
 
 I葬法論─狂癘魂と鎮魂(はじめに/古代の殯/自然葬法と鎮魂/殯の種類と構造─殯の残存形態)II葬具論─その宗教的観念(はじめに/葬送幡と天蓋/杖と笠・蓑/四花と忌串/経帷子/棺/鍬/松明と箒/頭陀袋と入れる品物/葬送と念仏者/ヨーロッパの葬墓とその研究書/六道/被り物/人形と槌/塔婆/四門と仮門/位牌/戒名)III葬儀論1─臨終儀礼(はじめに/仏教の臨終儀礼/民俗の臨終儀礼)IV葬儀論2─殯歛儀礼(通夜/発喪/霊供/入棺)
 
 五来氏の著作は多い。以下、参考となるものをあげる。
・五来重『仏教と民俗』(角川書店、1976)
・五来重『日本人の地獄と極楽』(人文書院、1991)
・五来重『日本人の死生観』(角川書店、1994)
・五来重『宗教民俗集成』(全5冊、角川書店、1995)

■藤井正雄『祖先祭祀の儀礼構造と民俗』 弘文堂、1993
 
 仏教学、宗教学、民俗学、近年では生命倫理までまさに学際的に活躍するとともに葬送文化について指導的立場にある著者の博士論文。内容は専門的。
「祖先崇拝の儀礼構造が日本人の潜在的な宗教心性の表現である民俗といかなる関わりを示すかを明らかにしようとするもの」
 著者は年来、「生活体としての日本仏教」は「民俗の仏教化」と「仏教の民俗化」の相互作用から成ると主張しているが、これを儀礼構造に焦点をあて展開したものである。
 
 アプローチのための構造的素描/宗教の受容と変容/仏教儀礼の構造/仏教と民俗宗教/先祖供養観の展開と祖先祭祀

■井之口章次『日本の葬式』 筑摩書房、1977
 
 この本で葬儀の習俗であるタマヨバイやミミフサギなどを知った人も多いだろう。葬儀の民俗については一般には代表的とされている本である。
 五来氏の指摘を待つまでもなく、民俗の解釈はむずかしい。

■山折哲雄『死の民俗学─日本人の死生観と葬送儀礼─』 岩波書店、1990
 
 今や「宗教思想家」という名前が似合う著者の死生観と葬送儀礼を軸にした論文集。大きな視野での論理展開が見事である。内容は、
 
 死と民俗─遺骨崇拝の源流─/神話に現れた世界像/大嘗祭と王位継承/浄穢の中の王権/二つの肉体─チベットにおける王位継承と転生思想
 
 著者は、宗教学、人類学、文学思想と学際的に活躍し著作も多い。参考となるものをあげておく。
・山折哲雄『日本宗教文化の構造と祖型』(青土社、1995)
・山折哲雄『生と死のコスモグラフィー』(法藏館、1993)

■新谷尚紀『死と人生の民俗学』 曜曜社出版、1995
 
 著者の『日本人の葬儀』もそうだが、安心して最新の研究成果に触れることができる感じがする。葬儀の民俗について知りたい人はまず新谷氏の著作を入門にするとよいだろう。
「葬儀のしくみ」のところで著者は次のように述べている。
「葬送儀礼はこの血縁、地縁、無縁(注・僧侶)という三様の立場が関与しながら、それぞれ死者をめぐる愛惜と恐怖という感情の交錯の上に展開するというしくみをもっている。…そしてこの三者によって人間の死というやっかいな事実に対処しているのである」
 
エッセイ・死の民俗/概説・人生儀礼/ノート・一枚の紙片から

■新谷尚紀『ケガレからカミへ』 木耳社、1987
 
 著者は「ケガレの価値の逆転」ということに注目する。「ケガレ」をめぐっては論争が繰り広げられたが、波平氏の説を受けて民俗調査をもとに丹念に展開している。

■波平恵美子『ケガレ』 東京堂出版、1985
 
 日本民俗学の「ケガレ論争」はまだ終わっていないかもしれないが、それに実質上終止符を打ったものとして本書はあるように思う。その意味で極めて重要な書物である。
 「日本の民俗学の父」である柳田国男は日常態を示す語として「ケ」を非日常態を示す語として「ハレ」を用いた。桜井徳太郎はこれをハレ観念の過大視として批判し、「ケ」こそ重要であり、ケを持続するためにエネルギーを補う行事がハレ行事とした。そしてケの生活の中でエネルギーが枯渇した状態を「ケガレ」であるとした。これが「ケガレ=ケ・枯れ」とする桜井の説で、耳にしたこともあろう。
 波平氏は、この説は有効な面もあるが「語彙でもって人間の行為を説明するという民俗学の方法論の偏りを端的に示す例」と批判する。したがって「ハレ・ケ・ケガレは、日本人の信仰の中で重要な観念ではあるが、むしろ清浄性・神聖性を示すハレ、日常性・世俗性を示すケ、不浄性を示すケガレという位の漠然としたものとしてとらえ、儀礼を分析するための理論的枠として用いる」べきとしている。
 食物の役割などの葬儀習俗を有効に説明するものとしても本書の役割は大きいものがあると理解している。

■葬送文化研究会編『葬送文化論』 古今書院、1993
 
 葬送文化についてのユニークな勉強会を催している葬送文化研究会が、会員で手分けしてまとめたもの。その幅広い取り扱いは、葬送文化の全体像を示すものになっている。レベルは高い。
 
序論/遺体/葬具・敬供品/葬儀/火葬/埋葬/追悼/法制/葬送文化をめぐって

■須藤功『葬式─あの世への民俗─』 青弓社、1996
 
 本誌に創刊以来連載された著者による「葬祭みんぞく学」を加筆修正して一冊にまとめられたもの。
 連載中も好評であったが、民俗学写真家としての優しい眼がとらえた失われゆく日本の葬儀の風景がここにはある。文章も読みやすい。
 今はすっかり姿を消しているが、私たちの葬送とはどういうものだったのか、その素朴な風景に心を動かされるだろう。

■柳田國男『柳田國男全集』 全32巻、1990、ちくま文庫
 
 民俗学の最後は柳田国男の紹介をしておく必要があるだろう。大切なのは「先祖の話」、これは第13巻に収められている。
 「先祖の話」は日本人の死生観を柳田がどうとらえたか、それを知る上で極めて重要である。この世とあの世との境界は極めて近いものと認識されていただろうなど、今でも有効な分析である。盆と正月の類似性など興味深い話にも満ちている。





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