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碑文谷創

 戦後の死の研究の先端は社会学が切り開いたと言ってもよいかもしれない。
 直接的に日本の死の文化を研究したものは別項にまとめたので、ここでは今日の研究の基礎をなす欧米の成果を中心とする6冊の社会学、人類学の書籍を紹介する。

■A・ファン・ヘネップ『通過儀礼』 綾部恒雄・裕子訳、弘文堂、1977
 
 原著は1909年に刊行されている。人類学の古典的名著である。
 人間は生きることにともないあるステータスから違ったステータスに移行していくとき区切りの儀礼を行い、それらには共通性がある。葬式もその意味では妊娠・出産、婚約・結婚同様に通過儀礼とみなされる。
 分離─過渡─統合という儀礼の段階において説明される見事さに驚かざるを得ない。だが、近年、このヘネップの理論を金科玉条にして葬儀文化をモデル化しすぎる研究が多いように思うのは偏見だろうか。

■G・ゴーラー『死と悲しみの社会学』 宇都宮輝夫訳、ヨルダン社、1986
 
 マクマナーズが「死の調査研究のタブーを破った」と評し、アリエスも高く評価したのが1955年にゴーラーが発表した「死のポルノグラフィー」である。これは本書にも収録されている。あまりに有名なこの論文を要約しておく。
 一九世紀には性や誕生がタブーとされ、死はそうではなかったが、二〇世紀になると性がオープンになり、死(特に自然死)は反対にタブーとされるようになった。反面、戦争や事故による横死は小説や映画などの中で露出されるようになる。誕生・性・死という人間の基本的事実と相対するのを社会がタブーとするなら人目を忍んでするようになる。
本書においてゴーラーは、社会が他人の死に冷淡になり、遺族の喪の悲しみに対する許容度を減少させた結果、愛する者を亡くした人間に必ず発生するものである悲嘆に適切に対処していく社会的支援を欠くようになっている、と調査結果を下に結論づけた。このことにより彼は遺族心理についての精神医学におけるその後の研究に道を開いたことで大きな功績がある。
 
家族の者の死/宗教と遺族/葬儀とその後/悲しみと哀悼/さまざまな哀悼のしかた/死別の種類/結語

■エドガール・モラン『人間と死』 古田幸男訳、法政大学出版局、1973
 
「死の社会学を検討することによって…社会が死にもかかわらず、死に抗して機能しているだけではなく、社会が組織体である限り死によって、死とともに、死の中でしか実存し得ないことを、証明しようと努めることだろう」
 と、本書の序に若き社会学者モランが書いた野心作。読むには覚悟がいる。

■メトカーフ、ハンチントン『死の儀礼─葬送習俗の人類学的研究─』 池上良正・川村邦光訳、未来社、1985
 
 この本は葬送に関する人類学の研究成果をまとめたものとして極めて便利なものである。エルツ、ヘネップ(本書ではジェネップと表記される)、デュルケムからアメリカの葬儀産業批判をしたジェシカ・ミットフォードまで引用しながら現代的評価を加えながら紹介している。

■内堀基光・山下晋司『死の人類学』 弘文堂、1986
 
 日本人の手によってまとめられた著作。東南アジアのイバンとトラジャの二つの民族の死の民俗についての研究が主体であるが、第一章に「死の人類学の可能性」とする研究概観がある。

■宇都宮輝夫『生と死の宗教社会学』 ヨルダン社、1989
 
 ゴーラーの著書の訳者によるもの。ゴーラーやアリエスに対する批判も展開してある。


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