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碑文谷創

 葬送についての基本的な辞典・事典を紹介しておきたい。
 ここでは少し範囲を広げて関連するジャンルをも取り扱っておくことにしよう。

■藤井正雄監修『葬儀大事典』 鎌倉新書、1980
 
 各宗教宗派の葬儀儀礼について知りたいと思った場合、これがもっともまとまっている。しかも書いているのが当該教団の代表的な人が多いとあって、信頼性がかなり高い。
 執筆者がそれぞれいて必ずしも構成などに統一がとれているわけではない。また、詳しさにも差があるが、これだけまとまっているものがないので、そのマイナスは気にならない。各宗派とも葬儀の歴史、精神、式次第、荘厳、戒名(法名)・位牌、葬具、追善供養などについて述べられている。専門家がそれぞれ書いているため、項目によっては素人には読みにくい点もあるのは残念である。
 七、一般葬、八、社葬の項は一般的な記述にとどまっている。この部分はあまり参考にならない。
目次を紹介する。
 
一、葬儀式にあらわされた各宗教の浄土(天国)観・霊魂観
・日本人の死生観と他界観(藤井正雄)
二、仏教の葬儀
・天台宗(多田孝文)・真言宗(新居祐政)・真言宗智山派(福田亮成)・真言宗豊山派(星野英紀)・浄土宗(藤井正雄)・西山浄土宗(岩橋俊正)・浄土真宗本願寺派(岡崎諒観)・真宗大谷派(佐々木孝正)・真宗高田派(真置俊徳)・真宗興正派(近藤順良)・時宗(佐藤哲善)・融通念仏宗(夏野義常)・臨済宗(渋谷厚保)・曹洞宗(坂内龍雄)・黄檗宗(森本信光)・日蓮宗(早水弁静)・日蓮宗(編集部)・本門仏立宗(馬養日虔
三、仏教の先祖供養・報恩と仏壇の祀り方(天台宗/真言宗/浄土宗/浄土真宗本願寺派/真宗大谷派/臨済宗/曹洞宗/日蓮宗/日蓮正宗/本門仏立派/霊友会/立正佼正会)
四、神道の葬儀と先祖祭祀
・神社本庁(加藤隆久・小野和輝)・神道修成派・出雲大社教(編集部)・扶桑教(宍野健弌)
五、キリスト教の葬儀と祭祀
・カトリック(國井健宏)・ギリシア正教(編集部)・日本聖公会(森譲)・ルーテル教会(石居正己)
六、諸教の葬儀と先祖祭祀
・天理教(編集部)・生長の家(編集部)・天照皇大神宮教(編集部)
七、一般葬儀(臨終から葬儀までの準備/通夜/葬儀と告別式/出棺と火葬/収骨・遺骨迎え/精進落とし/葬儀の後始末/法要)
八、社葬・団体葬・合同葬(社葬の決定/社葬の前準備/葬儀委員の決定/実行委員会と役割/日取りと会場/社葬の通知/社葬通夜を行う場合/弔辞はどうするか/葬儀の進行/社葬の種類とその進め方/社葬の告別式/葬儀式・告別式の進行〔参考例〕/葬儀終了後の処理/葬儀費用と税務/法要/主な葬儀斎場)
九、葬儀式・葬具関連用語と解説

■藤井正雄・花山勝友・中野東禅『仏教葬祭大事典』 雄山閣、1980
 
 この事典は「多くの識者たちの批判に応えるためには、仏葬の本源的意味をたずね、民間伝承・習俗をも含めて総合的に、今日に至る歴史的経過をとらえ、そして現状を分析しなければならないだろう。これらの総合と分析の上に、改めてこれからの葬儀のあり方が問われてくることになる」という問題意識の下に仏教葬儀の意義を問うものである。
 この現代という地平で仏教葬儀をとらえるという視点が明確であり、しかも民俗をも深く意識してのものであり、その意味では本書はもっと深く読まれていいのではないかとの感想をもつ。
 もちろん昭和五五年という変化の真っ只中に書かれたという制約はあり、データ的な部分やその後の変化ということを考えれば過渡的な記述も目につくが、そうした時代背景を理解して読めば、またいっそう興味深いものがある。
三人の著者の共同討議の産物であるが、藤井氏(浄土宗)、花山氏(浄土真宗)、中野氏(曹洞宗)といった各宗派の代表的碩学の手になるものだけに信頼性に富み、有用である。この本は専門家を対象としていないだけに内容的にも読みやすくなっている。
構成は次のようになっている。
 
一、葬儀の手続きと準備/二、社葬と団体葬/三、死者儀礼の意味/四、葬式/五、法事/六、宗派の概要と各宗の葬送儀式/七、経典/八、本尊/九、先祖供養/一〇、死後の世界/一一、現世利益/一二、伝統的慣習/一三、墓地/一四、死の準備/一五、新しい葬儀の仕方/付録(他宗教の葬儀/葬儀式における説教のあり方/弔辞・挨拶・おくやみ文/質疑応答三〇項/祭壇・仏壇・仏具について/葬祭関係費用一覧/葬祭関係史参考図/日本における葬祭の歴史年表)

■藤井正雄編『仏教儀礼辞典』 東京堂出版、1977
 
 本書は全体が二部に分かれている。
 前半の本編は、約一〇〇語を五十音順に配列し解説しており、後半の式次第資料編は、各宗派別に儀礼次第をまとめている。
 本編で取り上げた語は民俗も含まれており、分量が定まっている関係で収録した語が制限されたとのことであるが、読む側からすれば数が絞られているだけ重点的に読んで理解できるというプラスの面がある。
 一つ一つの語の解説が充実しているのもうれしい。ここで書かれていることを理解するだけでまとまった知識を得ることができる。五十音順になっていて調べるのにも便利であるが、基本的には読む辞典としての性格を備えている。
 ここに収録してある語で葬送に何らかの関連のある語をあげておく。
 
下炬/異常死者の葬法/板塔婆(葬送塔婆/七本塔婆/年回塔婆/鳥獣供養の塔婆/十三仏塔婆)/一本花/位牌/引導/右遶三匝/盂蘭盆会/戒名(僧侶の尊称/宗派法号/在家法名/法号の選定)/角塔婆/過去帳/笠と杖/龕/忌日/忌服/浄めの塩/血脈/香奠/骨箱/四華/四本幡/十三仏/授戒会/出棺/施餓鬼会/葬具/葬送儀礼/逮夜/魂呼ばい/告げ人/通夜/天蓋/塔婆/流れ灌頂/入棺/墓/花籠/彼岸会/仏壇/枕団子/枕幡/末期の水/三日斎/湯灌/六道/六道参り/六角塔婆
 式次第資料編には、開眼式、結婚式、在家勤行式/授戒会/葬儀式についての各宗派のものをまとめてある。ちなみに葬儀式には天台宗、真言宗(高野山真言宗、真言宗智山派、真言宗豊山派)、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗、浄土宗、浄土真宗(本願寺派、真宗大谷派)、時宗、日蓮宗について扱っている。ある程度の理解力がないと読みこなすことは難しいが、資料的価値は高い。

■小野泰博・下出積與・椙山林継・薗田稔・奈良康明・尾藤正英・藤井正雄・宮家準・宮田登編『日本宗教事典』 弘文堂、1994
 
「本事典は、現代日本人のなかに、あるいは宗教習俗として、時として激しい教祖・セクトの発生となって脈々と生き続けている宗教的感性と心情、および宗教現象に視点をすえたのである。従来さまざまな角度から編まれてきた日本の宗教に関する事典は、そのほとんどが一宗一派ごとの枠のなかで教義・教団の解説を付したものであったが、本事典はこれを逆手にとり、生活態としての宗教現象から教義・教団を逆照射する形で見直そうと試みたのである」
 この序文にあるように、宗教社会学的視点を大幅に取り入れたところに本事典の特色がある。
 全体が五十音順になっているのではなく、全体が一〇の部門に分かれ、それぞれにおいて解説が並び、それぞれの部門の末尾に用語編が五十音順に置かれているという構成になっている。各解説がよくまとまっており、全体として事典というよりは概説という感じの仕上がりになっている。
 日本の宗教文化を総体的にとらえようとするとき、極めて便利で有用な事典ということができる。
以下、全体の構成と共に、葬送に関係する解説のみをピックアップして紹介しておく(けっして拾い読みを勧めるものではないが)。
 
一、日本宗教文化の源流
1祭場と祭具 総説(椙山林継)/卜占(椙山林継)  2墳墓と葬法 総説(椙山林継)/土葬(坂詰秀一)/火葬(網干善教)/石棺・石槨葬(杉山晋作)/壺・甕棺葬(佐野大和)/洞窟葬(椙山林継)/墓前祭と墓域(椙山林継)
二、神道
1総論 自然・風土と神道(薗田稔) 4祭祀と神話 祓と禊(沼部春友)  6神道と生活 神道と生活拠点(上田賢治)
三、仏教
1総論 総説(奈良康明)  2寺院の機能 葬送儀礼と慣行(藤井正雄)/寺院の機能─密教系(疋田精俊)/寺院の機能─禅系(門馬幸夫)/寺院の機能─日蓮系(中尾堯)  4信仰対象 祖霊信仰(伊藤唯真)
四、道教・陰陽道
五、修験道
六、儒教
1総論 儒教の宗教的性格─中国(宋代〜清代)(山下龍二)  2思想 礼の思想(末木恭彦)/排仏論(圭室文雄)  3制度・儀礼 葬祭儀礼と儒教(藤井正雄)
七、キリスト教
八、民俗宗教
1総論 国家の宗教と民俗の宗教の歴史的相互関連性(荒木美智雄)  2カミ観念 祖霊と御霊(宮田登)  3他界観 総説(赤田光男)/現世と他界(赤田光男)/境(赤田光男)/山・平地・海(赤田光男)/死と他界(赤田光男)  5俗信 禁忌(宮本袈裟雄)  6儀礼と行事 暦と行事(真野俊和)/生と死の儀礼(真野俊和)/再生の儀礼(真野俊和)/ハレ・ケ・ケガレ(真野俊和)  7仏教民俗 総説(坂本要)/寺と民俗(坂本要)/村と仏教(坂本要)
九、新宗教

■大塚民俗学会編『日本民俗事典』 弘文堂、1994
 
 葬送が民俗と深いかかわりがあるのは言うまでもない。本書は縮刷版であり、もとは1971年に刊行されており、その意味では新しい解釈に触れるというわけにはいかないが、極めてスタンダードなものとして見ていい。
 本書の執筆者を見ると、井之口章次、五来重、竹田聴洲、桜井徳太郎、宮田登、藤井正雄、森岡清美、和歌森太郎といった錚々たるメンバーが並ぶ。
 内容としては言葉の解説を中心としたもので、引く辞典で、ちょっとわからないときに調べるのにいい。これでもって勉強するという使い方は勧められない。
 項目分類があり、「葬送」の項では六七語がリストアップされている。民俗事典らしく、魂呼び、耳塞ぎ、告げ人、魔除け、泣女、穴掘り、喪屋などという語が取り上げられている。その他にも関連する語が見られる。

■古田紹欽、金岡秀友、鎌田茂雄、藤井正雄監修『佛教大事典』 小学館、1988
 
 この事典で「職衆(しきしゅ)」を調べてみる。
「色衆とも書く。法会や灌頂などのとき、梵唄を歌い、散華を行い、金剛杵を持つなどの職務を務める僧衆のこと。もと色袈裟を着用したので、色衆と記された。八四三年(承和一〇)の『東寺伝法灌頂始』には色衆三〇人と記している。のちに諸職勤仕の意から職衆と表記した」
 これを『広辞苑』で調べる。
「しきしゅ【職衆・色衆】〔仏〕法会の時、梵唄・散華などの職務を帯びて、一座に参する僧衆の総称」        二つの差は明らかである。佛教大事典のほうが説明が丁寧で百科事典的になっている。専門事典を調べると得をする一例である。
 ちなみに、現在の葬儀で複数の僧侶が務めるときに導師以外を「式衆(しきしゅ)」と称するのは俗称のようだ。職衆には梵唄・散華などの職務があるので、正しくは「伴僧(ばんそう)」と言うらしい。ちなみに本事典で「伴僧」は次のように説明さている。
「随伴の僧の意味で侍者と同じであるが、法要において住職や高僧の導師を助する役、密教では護摩壇の世話、他宗では灯明・香華を守ったり、経典の読誦にあたる」
 本事典の編集方針は「仏教の歴史的遺産を過去に遡ってのみ解明するのではなく、近現代の視点に立って、現代人にわかり易く、役立つものということを基本にした」もので、比較的に説明の文章もわかりやすい。また、読み仮名が多くふられているのも便利である。
 大項目については詳しい体系的な説明が行われており、仏教に関する百科事典と言ってもよい。ちなみに「葬送習俗」も大項目とされ、藤井正雄氏による二ページにわたる解説が付されている。
 解説項目七五〇〇、参照項目四〇〇〇を扱っている。

■中村元・福永光司・田村芳朗・今野達編『岩波 仏教辞典』 岩波書店、1989
 
 佛教大事典はB5判であるのに対し、こちらは半分の大きさのB6判なので持ち運びに便利である。推定するに収録語数は約三〇〇〇、索引に掲載されている語が約八五〇〇語である。
 事典ではなく、「辞典」とあるように簡潔にして正確な語の説明となっている。
 ちなみに佛教大事典にあった「伴僧」は本辞典にはない。「職衆」については次のように説明されている。
「〈色衆〉とも書く。密教の灌頂または大法会のとき、導師にしたがい声明〔しょうみょう〕(仏教声楽)、散華(花をまき散らす)、鳴物〔ならしもの〕(鐘〔しょう〕・鼓〔こ〕・磬〔けい〕・戒尺〔かいしゃく〕・木魚〔もくぎょ〕・鈴〔れい〕など)その他の諸役をつかさどるものをいう。法を伝授できる阿闍梨〔あじゃり〕になるための伝法灌頂の場合、僧綱〔そうごう〕、金剛杵〔こんごうしょ〕をもつ持金剛衆、花筥〔けこ〕をもつ持花衆、幡〔ばん〕をもつ持幡衆などがある。諸職をつかさどるから職衆といわれ、色の法衣を着しているから色衆ともいわれる」
 この項目は本辞典のほうが説明が詳細になっているが、どちらが詳しいかは項目により異なる。二冊もって比べながら調べるとよい。

■岡崎譲治監修『仏具大事典』 鎌倉新書、1982
 
 監修にあたった岡崎氏は「序」において次のように述べる。
「『仏具』という言葉には広義と狭義があるが、これを広義に求めるときは仏教用具全体を包含することになる。本書の表題はさらに拡大解釈して、仏教の教義や儀礼における仏具の意味づけを含めて命題したものである」
 このように広範にとらえられただけに仏具について総合的な知識が得られ、極めて便利である。
 また、著述の方法にしても総合的な認識が得られる工夫がされている。
「仏具を工芸史の上から見る研究者たちは、古い仏具の存在やその形式変遷の歴史の面では一歩を抜きんでているものの、仏具としての本来的な意義や使用法に暗いため、その真姿を見失うおそれがある。宗教者の側は仏具の意義用法の伝統を知るものの、古い遺品の実際とその変遷過程に暗い一面がある。ここに、美術工芸的な視野と、宗教者としての仏具の意義用法との相互の欠を補って仏具本来の意味を広義に体系的にとらえ、その所以する儀軌経典と実際の形式の変遷、あるいは使用法と宗派による特色などの総合的な認識を深めることができるようにとの目的で企画されたのが本書である」
 図版も豊富であり、見て確認することができる。また、比較して見る楽しみもある。
 葬儀の荘厳においては、葬祭業者は歴史や宗派の理解を無視した現在の「見た目」だけにはしる傾向があり、僧侶においては葬儀の歴史は無視して宗派の荘厳を葬儀においても絶対視する傾向があり、両者の溝は深まっている。仏具と葬具はあるものは重なり、あるものは乖離しており、葬儀の荘厳にあたっては葬儀の位置づけに対する共通認識は欠かせないが、あまりに仏具本来に対する認識が不足している実情において、本書から学ぶところは大きい。
 葬具については美術工芸的観点からはあまり重要でないのかもしれないが、仏具と葬具の関係の記述があると大いに助かる。だが、これはないものねだりであることはよくわかる。
 
細かい目次を紹介したいが、大きな構成のみをしめしておく。
第一章 仏具の種類と変遷
一、仏舎利の荘厳/二、経荘厳/三、荘厳具/四、供養具/五、梵音具/六、僧具/七、密教法具/八、数珠/九、法衣/一〇、修験道用具/一一、先祖供養具/一二、仏壇
第二章 宗派別仏具の荘厳法と特色
一、奈良仏教/二、天台宗の仏具/三、真言宗の仏具/四、浄土宗の仏具/五、真宗の仏具/六、時宗の仏具/七、融通念仏宗の仏具/八、臨済宗の仏具/九、曹洞宗の仏具/一〇、黄檗宗の仏具/一一、日蓮宗の仏具/一二、本門仏立宗の仏具
第三章 技法解説
一、金工技法/二、漆工技法/三、仏壇の木組み技法
第四章 行事・文様・紋章
一、仏教行事の特殊な仏具/二、文様の解説/三、寺院の紋章

 今回でもって基本図書の紹介は一応終えることにする。本来は基本図書として紹介すべきものが落ちていることも少なくないだろう。それはこちらの読書量の少なさを証明している。後日に補わせていただきたいが、ご教示たまわれば幸いである。なお、紹介したものの絶版となった図書も少なくない。図書館等でお読みいただければ幸いである。




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